名古屋高等裁判所 昭和25年(う)185号 判決 1950年4月11日
被告人
片野周次
主文
本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中、参拾日を本刑に算入する。
当審における訴訟費用は、被告人の負担とする。
理由
弁護人高井貫之の控訴趣意第一点の要旨は、
原審の訴訟手続には、判決に影響を及ぼすこと明白な法令違反がある。本件記録を見れば、起訴状のすぐ次に逮捕状と勾留状とが編綴してあつて、右逮捕状と勾留状には原審裁判所の受理年月日の記載がないので、起訴状に添付して原審裁判所に提出されたものと認むるの外はない。而して刑事訴訟法第二百五十六條末頃には、事件に付予断を生ぜしむる虞のある書類その他の物を添付してはならない旨の規定があり、刑事訴訟規則第百六十七條第三項には、第一囘公判期日において、逮捕状及び勾留状を裁判所に差し出すべき旨の規定があることより考えると、これを起訴状に添付したのは、訴訟手続に明白な違反があり、かつ起訴せられた犯罪事実と勾留状及び逮捕状に記載せられた事実とが同一なる以上、裁判官をして被告人が犯罪事実を必ず自白し或は爭うことなどあり得べからざるが如き予断を抱かしむる虞があるものであつて、これは、判決に影響を及ぼす訴訟手続の違反であると謂うのである。
本件記録を見るに、起訴状のすぐ次に勾留状と逮捕状が編綴されていることが認められ、被疑者又は起訴された被告人を勾留するときは先ず裁判官が勾留訊問をするので、事件について審理する裁判官がこれを爲すときは事件について予断を抱く虞れがあるから、原則として他の裁判官がこれを爲し、被告人を勾留したときは、勾留処分をしたその裁判官が第一囘公判期日が開かれたときは、速やかに逮捕状、勾留状及び勾留に関する処分の書類を裁判所に送付しなければならないことは所論の通りで、檢察官が直接裁判所に送付すべきものではない。本件についてこれを見るに、勾留状と逮捕状とが起訴状に添付されて差し出されたことを認むることができず、記録編綴の順序を誤つたものと認むるのが相當であり、かつ逮捕状及び勾留状だけが第一囘公判期日前に裁判所に差し出されていたとしても、右の書類だけでは、裁判所に対し、事件の予断を抱かしむる虞はないので、仮りに逮捕状及び勾留状の提出方法について、瑕疵があつたとしても、これは判決に影響を及ぼすものではないから論旨は、採用することができない。